私たちはどう生きるのか? 映画「遺言―原発さえなければ」が問いかけるもの


映画「遺言―原発さえなければ」は、2011年3月から2013年5月まで800日間にわたり、飯舘村の酪農家たちに密着取材したドキュメンタリーだ。監督はフォトジャーナリストの豊田直巳さんと野田雅也さん。長年、世界の戦争、紛争の現場に足を踏み入れ、ていねいな取材を続けてきた二人だ。


フォトジャーナリストは人の不幸を切り売りする仕事だ、と言う人がいる。けれども、写真は、被写体との関係を如実に表してしまうメディアでもある。撮影者と被写体との距離がある程度近く、気を許した間柄でなければ、偽りのない喜怒哀楽を写真におさめることもできないし、見るものの記憶にも残らない。そして本が売れない昨今、この業界は食べていくのもままならないのが実情だ。
そのなかで、フォトジャーナリストをつづけてきた二人は、誠実で愛のある人たちだと思う。


編集を担当した安岡卓治さんは、これまで数多くのドキュメンタリーを手がけてきたが、これほど被写体との距離が近い映像を見たのは、初めてだったと話している。


映画はナレーションや説明的な字幕が一切なく、酪農家や農家、その家族の生の声だけで進んでいく。被写体となった人々はつくり手のシナリオにあわせて切り取られた存在ではなく、あくまで主体なのだと感じる。


ある人は線量の高い庭で「目に見えない戦場で戦っているみたい」と言い、ある人は「私らはばい菌じゃないよ。大丈夫っていわれているじゃん」と訴える。10年前、理想の酪農を求めて飯舘村に移住した若い酪農家は、子牛を前にして「売りたくねえな…。ちくしょう!」と叫ぶ。


この映画の主人公ともいえるのが、前田行政区区長の酪農家の長谷川健一さんだ。村内の11戸の酪農家のリーダーでもある長谷川さんは、区民の避難や放射能対策に奔走する。
映画のタイトルでもある「原発さえなければ 残った酪農家は原発に負けないで頑張ってください」という、遺言をのこして亡くなったのは、長谷川さんの友人でもある酪農家だった。この無念を訴えることを、長谷川さんは決意する。


長谷川さんは、同じく酪農を営んでいた息子に対して、ときには感極まって涙ぐむ監督に対しても、「自分でよく考えなさい」と厳しく温かく語りかける。絶望のなかで思考停止してしまいそうになる者を、長谷川さんは鼓舞する。


やりようのない悲しみを感じる場面がある。その一方で、ふっと笑いがこぼれるような夫婦の他愛ないやりとりがあったり、村民同士の真のきずなを感じさせる場面もあったりする。


この映画に写っているのは、原発に翻弄された人々だ。けれども、それでも変わらない大切なもの、自分の人生を貫こうとする人々のたくましさも同時に描かれている。


原発をどうするか、ということだけではない。私たちはどう生きていくのか、ということを、この映画は問いかけているように思う。


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「遺言―原発さえなければ」
取材 撮影 監督/豊田直巳・野田雅也
上映時間 3時間45分


劇場公開 ポレポレ東中野 
日時 2014年3月8日(土)~14日(金) 12:20~17:00
(途中休憩あり。各日とも上映後には、両監督とゲストのトークショーあり。)
前売り券2500円 当日券3000円


前売り券購入を希望される方は下記の公式サイトをご参照ください。
http://yuigon-fukushima.com/


もしくはブログ管理者 野口kazu.praca@gmail.comまでご連絡いただければ、対応いたします。

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プロフィール

野口和恵

フリー編集者・ライター。児童書編集にたずさわるかたわら、国内外の子どもを取り巻く問題について取材。

著書に「日本とフィリピンを生きる子どもたちージャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」(あけび書房)がある。


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