被災地に生きるフィリピン人コミュニティの底力2


パワフルなフィリピン人女性たちは、ほかの被災地にもいる。


6月17、18 日に仙台で開かれた、移住労働者と連合するネットワークの全国ワークショップでは、「東日本大震災の外国人被災者」というテーマでの報告があり、そのなかで南三陸町に暮らすフィリピン人女性、佐々木アメリアさんからの報告があった。


アメリアさんは日本に暮らして33年になるという。震災前、南三陸町でアメリアさんは、英語教室を開いていたが、津波によって教室を流された。南三陸町には震災前、アメリアさんをふくめて15人のフィリピン人が暮らしていた。そのうち一人が亡くなり、ほかの方も財産やパスポートを流された。アメリアさんは、自分も避難所で生活しながら、同国出身の女性たちの相談にのった。ぼろぼろになった町を見て、町に助けを求めるのではなく自分が町に何かをしなければと思ったという。


震災から数か月経ったあと、アメリアさんは、震災で仕事を失った仲間たちを助けようと、「サンパギータ・F・L多文化協会」という団体を立ち上げ、ホームヘルパー2級の資格取得のための勉強会や、パソコン教室、日本語教室を始めた。


報告会では、震災から3年と3か月経った気持ちを、アメリアさんは日本語で次のように語った。


「今もまだ町民の心は回復していません。辛さを飲みこんでがんばっています。第二のふるさとでボランティアをはじめました。ゼロではなくゼロの下から始まったのです。新しく食堂も始めました。人口の半分以上が出てしまっていますから、商売にはなりません。
でも、ぼーっとしているよりはいいんです。ぼーっとしていると考えてしまうから。
1、2年は言葉がつまる状態でした。仮設住宅をまわって、老人の気持ちを楽にしました。国籍関係なくスムーズに暮らしたいです。震災はいいことと悪いことを教えてくれました。人間はひとりでは暮らせない。命は大切です。」


自然災害の前には、日本人も外国人もまったく関係なく、手をとりあわねば、どちらも生きてはいけないのだという、当たり前のことをアメリアさんの言葉から強く感じる。


東北大学研究員の李善姫氏によると、1990年ごろから東北地方では、日本人との結婚を機に外国から移住する女性が増えたという。過疎化に悩む自治体もこうした結婚を奨励してきた背景がある。しかし、右も左もわからない土地にやってきた移住女性たちをフォローする体制は不十分であった。そうした中で、女性たちは夫やその家族のやり方に即座に適応することが求められた。移住女性同士が集まり、悩みを語り合うような機会はほとんどなく、教会で顔をあわせることはあっても、それ以上のつきあいはなかったという。


しかし、震災後、移住女性たちは、安否確認などを通して、同国出身者との連帯が深まり、ともに地域でボランティアを行うようになっていった。以前に紹介したハワク・カマイ・フクシマやサンパギータ・F・L多文化協会のほかにも、現在、被災地では、多くの移住者外国人コミュニティが活躍している。


それを牽引しているのは、アメリアさんのように日本在住期間が長く、日本語や英語に長けている女性たちだ。李善姫氏は、そうしたリーダーたちの活躍を評価する一方、地域の表舞台に立つ移住外国人のイメージが定着することで、そのほかの移住外国人が抱えている困難が見えにくくなるおそれがあると指摘する。


すでに日本経済を支えている移住外国人だが、非正規雇用であったり、劣悪な労働環境で働かされていたりすることが多い。ふだんから日本人よりも脆弱な立場に置かれているのだ。また、女性の場合は、DV被害者になるケースもめずらしくない。貧困状態や孤立に陥るリスクが高いのが現実である。どこに相談したらいいのかわからず、ひたすら耐えるしかないという人も多いだろう。


しかし、そうした人々も、もともと異国の日本で生きることを決意し、海を渡ってきた人たちだ。日々の生活が大変であっても「チャンスがあれば、もっと日本語を勉強したい」と話す人に出会うことがよくある。彼らとの交流のなかから、日本人が得られることは、まだまだあるはずだ。


安倍政権は移民受け入れ拡大を進めている。しかし、現在も日本には、多くの移住外国人がいること、そして、人権が保障されていない状況を、まず直視すべきではないだろうか。


ある移住女性はこう言った。
「この国の住民として認めてもらえたら、きっと私はもっと日本を大切にするようになります」。

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プロフィール

野口和恵

フリー編集者・ライター。児童書編集にたずさわるかたわら、国内外の子どもを取り巻く問題について取材。

著書に「日本とフィリピンを生きる子どもたちージャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」(あけび書房)がある。


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