ローマ法皇のフィリピン訪問とストリートチルドレン


昨年末から先月まで、フィリピン国内では、ローマ法王フランシスコの話題で持ちきりだったようだ。ローマ法皇は、1月15日~19日にフィリピンに滞在した。国民の90%がカトリック教徒のフィリピンでは、国をあげてローマ法皇を歓迎した。マニラのリサール公園で行われたミサには、少しでもローマ法皇に近づこうと、800万人の人がつめかけたという。


現ローマ法皇のフランシスコ1世は、もともと庶民からの評価も高いようだ。権威主義的になった教会に対して自己反省を促し、貧困層の支援に意欲を見せている。2013年のイースターの際には、ローマの少年院で、収容者たちの足を自ら洗うなど、その姿勢は行動にも表れている。


このフィリピン滞在中にも、かつて路上生活を送っていた子どもと対面し、微笑む写真が流れた。その姿に多くのフィリピン人が感激したことだろう。しかし、ローマ法皇がもっとも気にかけているといった、最貧層の子どもたちは、彼の目にとまることはなかった。


英紙「デイリー・メール」と、「日刊マニラ新聞」は、ローマ法王のフィリピン滞在にあわせて、マニラ社会福祉省が、100人を超える5歳前後のストリートチルドレンの身柄を拘束し、収容施設に入れたことを報じた。マニラ社会福祉省の責任者は、拘束理由について、「ローマ法皇が貧しい子どもたちに思いを寄せていることから、犯罪集団が子どもたちを利用して、ローマ法皇に接近する可能性があったため」だとコメントしているという。しかし、それだけの理由なら、もっと別の方法があっただろう。子どもたちが収容された施設がいかに劣悪な環境であるかは、前回の投稿「あるフェイスブック投稿が伝えたマニラの児童福祉」に書いたとおりだ。


また同じく、1月15日の朝、マニラ市マラーテ地区では、ストリートファミリーたちが、強制的に社会福祉開発省のバスに乗せられ、19日まで郊外のリゾートホテルに連れて行かれたことが、NGOバハイ・トゥルヤンの報告であきらかになった。社会福祉開発省は、否定しているが、これもローマ法皇から貧困を隠す目的であったと考えられる。なお、連れていかれた先のホテルでは、朝食が終わると研修に強制的に参加させられ、自由に部屋に出入りすることも、敷地の外に出ることもできなかったという。


「最貧困の人に心を寄せる」というローマ法皇に最高の敬意を示し熱狂する国が、一方で最貧困の人々を排除し隠そうとする。信仰とは何か。


この件について、ストリートチルドレンを考える会のメンバーに共有させてもらったところ、共同代表の工藤律子さんのツテで、カトリック中央協議会の方から、ローマ法皇に直接手紙を渡していただけることになった。私は少しフィリピンにいただけで、クリスチャンでもないし、かしこまった文章の書き方も知らない。不躾になるかもしれないが、わずかでもできることはやっておきたいという気持ちから、会の名前で次のようなメッセージを作成した。


フランシスコ ローマ法皇


突然のお手紙で失礼いたします。私たちは途上国のストリートチルドレンについて学び、考える日本のグループです。私たちは、毎年、フィリピンとメキシコのストリートチルドレンのもとを訪ね、交流をしています。メンバーのなかには、現地に長期滞在してボランティアをした者やNGOの職員となって働いた者もいます。


このたび、フィリピンのストリートチルドレンについて残念な知らせを聞き、貴方のお力をお貸し願えないかと思い、お手紙を差し上げることにいたしました。


今年1月15~19日、貴方がフィリピンを訪ねた際、フィリピンじゅうの人が貴方のことを歓迎しました。その一方、英紙のメール・オンラインは、貴方の訪問に先立ち、マニラ首都圏で、5歳くらいの幼いストリートチルドレン数百人が収容施設に入れられたことを報じました。これについて、地区の責任者は、「ローマ法皇が貧しい子どもたちに思いを寄せていることから、犯罪集団が子どもたちを利用して、ローマ法皇に接近する可能性があったため」と説明しています。


しかし、このようなことは今回に限ったことではありません。マニラ首都圏では、子どもたちを無作為に、強制的に車に乗せ、収容施設に監禁するオペレーションが日常的に行われています。これは、私たちと交流のあるNGOバハイ・トゥルヤンが、ストリートチルドレンたちにインタビューした結果、あきらかになったことです。収容施設のなかでは、子どもたちが大人の犯罪者と同じ檻の中に入れられることもあり、子どもたちは、施設のなかで、犯罪者からあるいは施設の職員からの暴力に怯え、過ごしています。食事も衛生的な水も、寝具も衣服も極端に不足しており、家族と連絡をとる術もないといいます。
子どもたちがこのようなひどい扱いを受けるのは、フィリピン政府が、ストリートチルドレンを「守るべき存在」ではなく、「厄介者」と考えているからだと思います。


フィリピンの友人たちは、これまでも何度もフィリピン政府に改善を要求してきました。しかし、また、このようなことが起こってしまいました。
私たちは、貴方が貧しい人たちに心を寄せ、道を誤った人々にも寄り添う、すばらしい方であることを知っています。だからこそ、フィリピンでもっとも貧困に苦しみ、助けを必要としている子どもたちが、貴方から隠されてしまったことが、大変悔しく、残念でならないのです。このようなことがくりかえされることのないよう、キリスト教国であるフィリピンの人々に働きかけてくださいますよう、心からお願いいたします。また、ストリートチルドレンの排除は、ほかの多くの国でも起きていることです。貴方がこれから訪れる国で、貴方の慈愛をもっとも必要としている人たちが、迫害されることのないよう、世界の国々と協力していただけるよう、心からお願いいたします。


2015年2月8日
ストリートチルドレンを考える会


この手紙はスペイン語に翻訳され、来月以降、ローマ法皇の手に届く予定だ。

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プロフィール

野口和恵

フリー編集者・ライター。児童書編集にたずさわるかたわら、国内外の子どもを取り巻く問題について取材。

著書に「日本とフィリピンを生きる子どもたちージャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」(あけび書房)がある。


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