彼女たちのその後


フィリピンから全国社会福祉協議会の研修のため来日していたバハイ・トゥルヤンのソーシャルワーカー、エナ・モンテスさんが約1年の研修を終えて帰っていった。


エナさんには私が共同代表をつとめる「ストリートチルドレンを考える会」のチャリティパーティでも現地の報告をしてもらい、バハイ・トゥルヤンの活動について知ってもらうことができた。日本語がほとんどわからなかったときも、持ち前の明るさ、やさしさですぐにみんなと打ち解けたエナさん。
実習先の施設でもエナさんの人柄に助けられた人はたくさんいたのではないかと思う。


昨年1年はフィリピンに行くことができなかったが、エナさんと定期的に会うことができ、
私もよく知っている子どもたちの現在の様子を聞くことができた。


カルメンは福祉系の大学の4年生になり、今年卒業予定だ。
カルメンと出会った6年前、彼女は15、16歳だった。けれども長い間学校に行けなかった彼女はそのときエレメンタリースクール(小学校)の5年生だった。物心ついたときには母親は亡くなっていて、父親と新しい家族との生活がうまくいかずにバハイ・トゥルヤンで生活をしていた。父親も6年前に亡くなり、死に目にあうこともかなわず、当時のソーシャルワーカーと抱き合い号泣をしていたのは忘れられない光景だ。


大半の子どもとスタッフが家族や親族のもとへ一時帰宅するクリスマス、私はカルメンが母方のおじの家に行くのに付き添った。クリスマス休暇に入ったソーシャルワーカーからは、「もしカルメンが泊まっていきたいといったら、そうさせてあげて」と言われていたが、日ごろからおとなしいカルメンは言葉少なかった。おばがつくったお菓子を食べて、いつもよりも静かなバハイ・トゥルヤンに私と一緒に帰った。ほんのわずかな間の訪問だったが、将来について「エンジニアかソーシャルワーカーになりたい」と彼女が言ったことは印象に残っている。


私が帰国したあと、ハイスクールの1年目で彼女は高校卒業資格が得られる試験をパスし、福祉系の大学に進んだ。大学1年生のときにバハイ・トゥルヤンのマニラオフィスで会っていたが、もう卒業間近とは早いものだ。


エナさんから話を聞いた数日後、ちょうどカルメンからフェイスブックでメッセージが届いた。現在はソーシャルワークの実習でマニラ首都圏の貧困コミュニティに入り、住民たちの仕事づくりに取り組んでいるという。もともと控えめな生活の彼女だが、その資金集めのためにさまざまな知人に手紙を書いてお願いに回っているという。5月に卒業したあとはいよいよソーシャルワーカーになるための国家試験を受ける予定だ。
彼女の成長ぶりはエナさんも頼もしく見ている。


一方でカルメンと同じ大学に進学し、カルメンのルームメイトでもあったエリザは妊娠し大学を休学したという。


エリザも賢く、熱い意思を持った子だった。
バハイ・トゥルヤンに来たばかりのころ、彼女はこういっていた。
「私には3つ夢があるの。ひとつはフライトアテンダントになること、二つめはお父さんの病気が治ること、三つ目はもう一度家族みんなで暮らすこと」。


また、大学に進学したばかりのころ彼女はフェイスブックにこんな書き込みをしていた。
「これから必死で勉強をがんばる。辛いときもあるかもしれないけれど、ここであきらめてしまったら、この先の人生はきっともっと辛い」


エリザの真面目さはエナさんも実感していたようだ。よくエリザの相談にのり奨学金のスポンサーをさがしていた。しかし、彼氏ができたエリザは、エナさんが日本に来てから妊娠していることがわかった。エリザ本人からエナさんに「ごめんなさい」とメッセージが送られてきたという。


ほかにも、若い母親になった女の子が何人もいる。
新しい命の誕生は喜びたい。
けれどもみんな母親になること以外にさまざまな夢を持っていた。


これについてエナさんは、「彼女たちは生まれ育った環境のために自己肯定感が低い。だから、自分を慕ってくれる彼氏ができるとうれしくて関係が深くなってしまうのだと思う」と話す。
日本での実習期間中にも同じようなことを感じることがあったそうだ。
エナさんのように親身になってくれるスタッフが回りにいても、子ども時代の欠損を埋めるのは難しいという現状を痛感した。


けれども、エナさんはこれからも母親となった彼女たちと関わっていきたいと考えている。
温かいスタッフたちに支えられた若い母親たちが愛情深く子どもを育てていくこと、そしていつか子どもたちが望み通りの人生を歩んでいけることをただ願う。

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プロフィール

野口和恵

フリー編集者・ライター。児童書編集にたずさわるかたわら、国内外の子どもを取り巻く問題について取材。

著書に「日本とフィリピンを生きる子どもたちージャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」(あけび書房)がある。


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