Archive for 3月, 2018

コロンビアのアフリカ系コミュニティを訪ねて

破壊された住宅の跡。政府軍基地へ向け発射された迫撃砲が住宅地に落ちた。(2014年 柴田大輔 撮影)

雲霧林に覆われたアンデス山脈を車で下ること2時間。しだいに空が青くなり、空気が熱を帯びてきた。向かった先は、コロンビア南西部沿岸の都市トゥマコ。赤道直下にあり、一年を通して平均気温が30℃前後という熱帯に属する地域だ。


そこではコロンビアの人口の4%(外務省データによる)にあたるアフリカ系住民が暮らしている。16世紀、スペインの植民地となったコロンビアには、ほかの南米の国と同じようにアフリカ人が奴隷として連れてこられた。彼らは鉱山やサトウキビ畑などでの労働に従事させられていたが、1851年に奴隷制が廃止になると、コロンビア国内を移動し定住先を見つけた。とくにトゥマコがある太平洋沿岸地方に移り住んだ人が多く、現在190万人のアフリカ系住民が暮らしている。1990年代前半には、一定の要件を満たしたアフリカ系コミュニティに対して、政府から共有地が与えられた。


トゥマコに着くとすれ違う人はみなアフリカ系で、アジア人の私たちは明らかに目につく存在だった。街のなかはジュースやパンを売る露天商や食堂、衣料品の小売店がずらりと並ぶ。どこでも音楽が大音量で流れ、人の声も大きい。住民たちの祖先が生まれたアフリカの風景もこんな感じだろうか。


ついバックパッカー気分に浸ったが、コロンビアを長く取材してきた案内人の柴田大輔によると「ここはコロンビアでももっとも貧しく難しい地域のひとつ」だという。一昨年サントス大統領がノーベル平和賞を受賞したことで日本でも話題になったが、コロンビアでは1960年代から農村の改革を訴える武装ゲリラが各地で生まれ、政府軍あるいはパラミリターレスとよばれる右派系の民兵組織との争いが続いた。さらにそこへ麻薬組織がからむこともあり事態は複雑化した。トゥマコはその最前線となった。


内戦に翻弄されてきたトゥマコには大きな産業がない。働く先といえば農場や魚市場、タクシーもしくはバイクタクシーのドライバー、または前述のような商店にしぼられる。こうした仕事で得られるのは、コロンビの最低賃金以下の給料だ。街の外れにはビーチリゾートがあり、ホテルや高級なレストランもあるのだが、経営者は外部の人間で、観光客が気前よく落とすお金はそこに集約されてしまう。

 

こうしたなか、カトリック教会の慈善組織「パストラル・ソシアル」はトゥマコの住人たちに寄り添った活動を続けている。パストラル・ソシアルのディレクターであり、ソーシャルワーカーとして女性たちの支援をしてきたドラ・バルガスさんを訪ねた。ドラさんのオフィスがある教会の前には、2001年に亡くなったシスターの胸象があった。パストラル・ソシアルでアフリカ系住民の権利回復のために尽力していた方だったが、何者かに暗殺された。アフリカ系住民の土地を守るため、国内外で精力的に活動していた時期だったという。


ドラさんはとてもチャーミングでエネルギーに満ちた方だった。私は自己紹介がてらストリートチルドレンを考える会のこと、フィリピンのNGOでボランティアしていたことを話し、「トゥマコにはストリートチルドレンはいますか?」とたずねた。すると、子どもではないが、大人の薬物中毒者で家族から見放され、一人で路上暮らしをしている者は多いという。彼らは昼間は人目につかないところで眠っているが、夜になると起きてごみをあさる生活をしている。年齢層は以前は30代、40代が多かったが、最近では20代もめずらしくない。その場合、青年たちが初めに薬物に手を出したのは10 代のころだという。


子どもが薬物中毒に陥る理由として、ドラさんは次のように語った。


「貧しくて学校に行けない子もいますし、子どもが安心して集まれる場がここにはありません。音楽やスポーツの才能があっても、それに打ちこめる場がなく、導ける大人もいないんです。そんな子どもたちに麻薬の売人は食べ物やお金をあげるから、仕事を手伝わないかと声をかけます。ごはんを食べられない子どもたちはお金や食べ物をほしくて手伝ううちに、自分も麻薬に手を出してしまうんです。同じようにして武装グループに入っていった子もいます。
 それから親が子どもの行動に関心を払えていない家庭の事情もあります。夜遅くに外出しても何も言わなかったり。でもそれは大人たちも十分な教育を受けていなかったり、仕事がなかったりして将来に対するビジョンを持てていないからなんです」。

 

トゥマコでは高校への進学率は60%、大学への進学率は3%にとどまっている。これはコロンビアの他の都市部にくらべ、明らかに低い。

(続く)

彼女たちのその後


フィリピンから全国社会福祉協議会の研修のため来日していたバハイ・トゥルヤンのソーシャルワーカー、エナ・モンテスさんが約1年の研修を終えて帰っていった。


エナさんには私が共同代表をつとめる「ストリートチルドレンを考える会」のチャリティパーティでも現地の報告をしてもらい、バハイ・トゥルヤンの活動について知ってもらうことができた。日本語がほとんどわからなかったときも、持ち前の明るさ、やさしさですぐにみんなと打ち解けたエナさん。
実習先の施設でもエナさんの人柄に助けられた人はたくさんいたのではないかと思う。


昨年1年はフィリピンに行くことができなかったが、エナさんと定期的に会うことができ、
私もよく知っている子どもたちの現在の様子を聞くことができた。


カルメンは福祉系の大学の4年生になり、今年卒業予定だ。
カルメンと出会った6年前、彼女は15、16歳だった。けれども長い間学校に行けなかった彼女はそのときエレメンタリースクール(小学校)の5年生だった。物心ついたときには母親は亡くなっていて、父親と新しい家族との生活がうまくいかずにバハイ・トゥルヤンで生活をしていた。父親も6年前に亡くなり、死に目にあうこともかなわず、当時のソーシャルワーカーと抱き合い号泣をしていたのは忘れられない光景だ。


大半の子どもとスタッフが家族や親族のもとへ一時帰宅するクリスマス、私はカルメンが母方のおじの家に行くのに付き添った。クリスマス休暇に入ったソーシャルワーカーからは、「もしカルメンが泊まっていきたいといったら、そうさせてあげて」と言われていたが、日ごろからおとなしいカルメンは言葉少なかった。おばがつくったお菓子を食べて、いつもよりも静かなバハイ・トゥルヤンに私と一緒に帰った。ほんのわずかな間の訪問だったが、将来について「エンジニアかソーシャルワーカーになりたい」と彼女が言ったことは印象に残っている。


私が帰国したあと、ハイスクールの1年目で彼女は高校卒業資格が得られる試験をパスし、福祉系の大学に進んだ。大学1年生のときにバハイ・トゥルヤンのマニラオフィスで会っていたが、もう卒業間近とは早いものだ。


エナさんから話を聞いた数日後、ちょうどカルメンからフェイスブックでメッセージが届いた。現在はソーシャルワークの実習でマニラ首都圏の貧困コミュニティに入り、住民たちの仕事づくりに取り組んでいるという。もともと控えめな生活の彼女だが、その資金集めのためにさまざまな知人に手紙を書いてお願いに回っているという。5月に卒業したあとはいよいよソーシャルワーカーになるための国家試験を受ける予定だ。
彼女の成長ぶりはエナさんも頼もしく見ている。


一方でカルメンと同じ大学に進学し、カルメンのルームメイトでもあったエリザは妊娠し大学を休学したという。


エリザも賢く、熱い意思を持った子だった。
バハイ・トゥルヤンに来たばかりのころ、彼女はこういっていた。
「私には3つ夢があるの。ひとつはフライトアテンダントになること、二つめはお父さんの病気が治ること、三つ目はもう一度家族みんなで暮らすこと」。


また、大学に進学したばかりのころ彼女はフェイスブックにこんな書き込みをしていた。
「これから必死で勉強をがんばる。辛いときもあるかもしれないけれど、ここであきらめてしまったら、この先の人生はきっともっと辛い」


エリザの真面目さはエナさんも実感していたようだ。よくエリザの相談にのり奨学金のスポンサーをさがしていた。しかし、彼氏ができたエリザは、エナさんが日本に来てから妊娠していることがわかった。エリザ本人からエナさんに「ごめんなさい」とメッセージが送られてきたという。


ほかにも、若い母親になった女の子が何人もいる。
新しい命の誕生は喜びたい。
けれどもみんな母親になること以外にさまざまな夢を持っていた。


これについてエナさんは、「彼女たちは生まれ育った環境のために自己肯定感が低い。だから、自分を慕ってくれる彼氏ができるとうれしくて関係が深くなってしまうのだと思う」と話す。
日本での実習期間中にも同じようなことを感じることがあったそうだ。
エナさんのように親身になってくれるスタッフが回りにいても、子ども時代の欠損を埋めるのは難しいという現状を痛感した。


けれども、エナさんはこれからも母親となった彼女たちと関わっていきたいと考えている。
温かいスタッフたちに支えられた若い母親たちが愛情深く子どもを育てていくこと、そしていつか子どもたちが望み通りの人生を歩んでいけることをただ願う。

プロフィール

野口和恵

フリー編集者・ライター。児童書編集にたずさわるかたわら、国内外の子どもを取り巻く問題について取材。

著書に「日本とフィリピンを生きる子どもたちージャパニーズ・フィリピノ・チルドレン」(あけび書房)がある。


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